自由意志は仕組みに勝てるのか?
私が企業研修の最後に必ず話すことがあります。
「セミナーを受講しても行動しないと何も変わりませんあなたの行動に期待しています」
講師をはじめた頃から無意識的に行動の大切さを痛感しており、知っただけの人になって欲しくない。実際に何か一つでいいから試して欲しいという気持ちで最後に念押ししています。
近年はやること1つを決めて紙に書くということをしています。書くことは重要です。こうしておくと次に会った際に実行した人の数が増えます。
これを裏付ける論文はないものかと思っていたところに出会ったのが実装意図(Implementation Intention)という概念です。
これに関してはアメリカの心理学者、Gollwitzer氏が有名です。
Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist, 54, 493-503.
実装という言葉自体が重々しく、武器を装備するような印象がありますが、IT業界では常識的に使われている言葉のようで、「実際に使える状態にする」ということだそうです。やり方は簡単で何かの行動を条件と紐づけておくというもの。
IF(条件)→THEN(行動)とするだけでよく、「if-then planning」とも言われます。
論文を読むからには信頼性の高いものがいいと思い、RCT(無作為化比較試験)のものを探して見つかったのが今回読んだ論文。
Making Self-Help More Helpful: A Randomized Controlled Trial of the Impact of Augmenting Self-Help Materials With Implementation Intentions on Promoting the Effective Self-Management of Anxiety Symptoms
セルフヘルプをより有用なものにする。不安症状の効果的な自己管理を促進するための実施意向のあるセルフヘルプ教材の充実の影響に関する無作為化比較試験
不安症状のある人に不安症状が軽減する小冊子に書いてあることを実行させるために「if-then planning」を使ったというものです。
しかし、このセルフヘルプの小冊子「Feeling Less Worried. A Three-Step Plan to Help You Manage Your Anxiety」はわかりやすく使いやすいように設計されており、なぜそれが役に立つのかという明確な根拠を提供し、不安管理という課題を、参加者が自分のペースで取り組めるように、小さな具体的なステップに分けているそうです。8ページと短く、大変興味があります。
実験の分析部分は私にはまだまだ難しく、ジャーナルクラブの主宰者である有永先生の解説により理解が深まりました。正直、こんな単純なことで大丈夫なのかと思いましたが、大丈夫なようです。というより、単純だから良いのかもしれません。
そろそろまとめると、知識をつかえるものにするためには「状況や条件」を決めて「行動」と紐づけておけばよいということです。
行動する状況を先に決めておくというのは、窮屈に感じかもしれませんが、有効な知識は使うタイミングが重要です。
□ ネガティブになったら深呼吸をする
□ 朝起きたらストレッチをする
□ 雨予報が30%以上で傘を持っていく
自由意志でその時その時に判断できればよいのですが、私は自由意志をそこまで信頼していません。というか、心理学の研究ではアメリカの生理学者Benjamin Libet氏による実験以降、自由意志の存在は劣勢です。
「風邪をひかないよう気をつける」より、「寒気を感じたら葛根湯を飲む」で行こうと思います。
今後、if-then planningは様々な場面で活躍してもらいます。