不安定な状況をのりきる「紙一重の戦略」

「地方は学校の先生も塾の先生も常識がアップデートされていなくて驚く」と、友人から聞いたことがあります。

あくまで友人が言っていただけなので、すべてとは思っていませんが、「キャリアの逆算や今後の人生で資産になることを、学生時代に考えることは重要」と、言っていました。

そういえば私は本や論文を読み、資格やスキル取得の勉強をしているが、それは学生時代からではなく、圧倒的に社会に出てからの話です。学生時代に周囲に友人のようなことを考えている人はいなかった。先生でさえも。

今思うと、せめて大学院生の頃くらいは真面目に勉強すれば良かったと思う。

このように小さな地方都市に住んでいると東京や大阪などの大都市と比べて勉強することへの意識が低く、大人になっても勉強し続けることへの評価が低いと思うことがあります。

これは、環境による影響だと思っています。

周囲に世界的な大企業があり、有名人が撮影していた、知り合いをたどっていくと成功した人につながるという場合、知らない間に自分の世界観が広がり、自分もそうなることができるという根拠のないリアリティのある確信が生まれ、行動しやすいのだろうと思います。若さは儚くも偉大です。

要するに有能な人が多い環境に身を置くと自分への影響も良いということです。今回は前回のグロースマインドセットに関する論文から研究が進んだ新しい論文をピックアップしました。

An Online Growth Mindset Intervention in a Sample of Rural Adolescent Girls
田舎の若い少女へのオンライングロースマインドセットによる介入
※1 引用リンクは今回から記事の最後に載せます。

グロースマインドセット、成長マインドセットともいいますが、私は基本的にグロースマインドセットと言うことにしています。なぜかというと、「成長」という言葉には、上昇志向とか、欲深いというイメージがあり、本質的に間違えて解釈する人がそれなりにいるからです。

私が前回、グロースマインドセットの論文を読んで学んだことは、「失敗や変化に強くなる」という特徴です。粘り強さや適応という印象があります。「能力は変えられない」と考えて諦めてしまう固定マインドセットとの差は「変わる」と思うかどうかの紙一重です。

また、「成長マインドセット」という本があって、全く違う意味で使われています。言葉は同じですが定義が異なるようなのでお気をつけください。象形文字である漢字を使い、ハイコンテクスト文化(※2)な日本や中国では考慮が必要だと感じることがあります。はい、話がそれました。本論に戻ります。

教育格差の解消へ「マインドセット+インターネット」

さて、グロースマインドセットをオンラインで行うことが出来るなら都市部と地方の教育格差の解消につながるのではないかと研究グループは期待しています。ついでに私も。

実験は4つの学校から222名の参加者を対象として、グループをオンラインでグロースマインドセットプログラム(Project Growing Minds:以下PGM)を実施するグループと、グロースマインドセットと関係のないプログラムを実施するグループにランダムに分けました。

調査したことは大きく言うとPGMがグロースマインドセットや、「学習動機」、「学習効力感」、「学校への帰属意識」に影響があるのかということです。

学習効力感とは「授業で一番難しい課題でもきっとできる」というように、自分はやればできると思える感覚の事です。

この学習効力感と学習動機は「学習態度」を意味しており、能力というより学習の継続性が高くなったのかを調べています。

学校への帰属意識が高まることを調査したのは、グロースマインドセットを導入すると「優秀」への帰属意識が高くなり、「勉強なんてしなくてもいい」という現行の価値観への否定に繋がることを期待したようです。(※3)

つまり、この研究は一過性の学習成績だけに焦点をあてているのではなく、教育格差があることを前提に、困難な状況であっても勉強を継続する環境づくりにグロースマインドセットが有効なのかを検証しています。

結果は、PGMはグロースマインドセットの定着に効果があり、定着したグロースマインドセットは学習動機、学習効力感の両方に効果があるというものです。おめでとう。なお、学校への帰属意識には影響がありませんでした。

見たい人のために図式化します。ここは読み飛ばしても問題ありません。

PGMによる介入で「直接」効果があるのは「学習動機」だけです。「学習効力感」への効果はグロースマインドセットを媒介することで「間接」効果があるということを表しています。

PGMは「勉強しよう」という動機を高めることには効果があるのですが、学習効力感への直接効果はありません。あくまで、グロースマインドセットを理解した人が学習効力感を上げ、学習成績を高めることができるということです。

動機は「やってみよう」と思うことなので、それ自体は大切ですが、動機だけで継続性に欠けます。実際にやり続けることで効果は出るということを教えてくれます。なお、学校への帰属意識への効果は今回の研究では確認されていません。

オンラインでもグロースマインドセットの定着に効果があり、学習態度をポジティブなものにすることができるという結果は重要なことです。教育格差解消への一手になる可能性があります。

不安定で変化する状況の処方箋

インターネットの本質はショートカットであり、均一化、画一化だと思いますので、ネットの特徴をうまく使えば格差解消に使える良い試みではないでしょうか。

この論文を読み、私が学生時代に学ぶ習慣がそれほどなかったのに、社会人になってから学ぶようになった原因の一つはインターネットの発達によりインプットが大幅に増えたことが影響しているのかもしれないと思うようになりました。

「世界にはこんな人がいる」と認識すると「やりたいならば、同じ人間、できないわけがない」と競争心が湧いてきました。環境が変わったということです。今でもそう思っています。

グロースマインドセットが精神論や根性論と明らかに違うのは多くの研究者が科学で証明してくれたので、ポジティブな結果になる確率が高く、心の支えになるということ。

この論文では地方の少女を対象に調査し、ポジティブな結果が出ていますが、困難な状況や不安定な状況ならば効果がある可能性が高いでしょう。

今も大都市に住んでいるわけではないので、グロースマインドセットを前提に2人の姪に接していこうと固く誓いました。あと、私が講師をする時にも受講生にそうやって接していこうと軽く誓いました。

変化するときには一回でうまくいくことの方が稀です。おそらく軽い失敗を何度も経験するでしょう。

そんな時に「まぁそんなもんだ」と言い訳のような固定マインドセットを発揮するより、「なんでうまくいかなかったのか?」、「どうすればうまくいくのだろうか?」と、自分は出来ることを大前提として考えるのが、グロースマインドセット。

不安定で変化の早い時代への処方箋として「努力で能力は伸ばせる」と、付箋に書いて手帳に貼っておきたいものです。まさに紙一重の戦略。

PGM(Project Growing Minds)→ https://www.projectgrowingminds.com/

※最初に公開した後、論文を読み深め、この研究のより深い魅力に気付いたため内容を大幅に加筆しております。

※1:An Online Growth Mindset Intervention in a Sample of Rural Adolescent Girls
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28960257/

※2:文化人類学者のエドワード・T・ホール氏が提唱した概念。共有している情報が多いハイコンテクスト文化と、少ないローコンテクスト文化があり、ローコンテクスト文化だと言葉を使って具体的に明確に伝える必要がある。ハイコンテクスト文化だと「言わなくてもわかる」という「察する、空気を読む」に繋がりやすい。

※3:A culture of genius: how an organization’s lay theory shapes people’s cognition, affect, and behavior
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19826076/

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